みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

加賀の友人からの頂き物

石川県金沢市に住む釣友よりの頂き物をご紹介したいと思います。其の釣友は20年を越す知己で刀剣などの文化もこよなく愛し、地元の白山白姫神社を信仰する私より大分年上の大先輩です。

かなり前に私の作った渓流釣りの餌箱を進呈した事があるのですが、未だに大事に使って頂いており、見る度に有難く思っておりました。其の釣友とある時に漆塗りの話になり、金沢には有名な金沢漆器をはじめ、近隣に様々な漆器の名産地が有りますので、私もつい個人的に興味のある事を話したのです。

其の内容は蒔絵の技法の一つである『闇蒔絵』、またの名を『黒蒔絵』の事でした。私が以前にある刀屋を訪れた時に肥前刀の拵えとして陳列されていた脇差の鞘は黒漆で仕上げられておりましたが、角度を変えて見た時に其の鞘の表面に見た事も無い黒い高蒔絵(高く盛り上げられた蒔絵紋様)で桜の花が施されていたのです。一見すると通常の黒の呂色塗(濡れた様な美しい黒色)なのですが、光の加減で美しい高蒔絵が浮んで来るのです。

闇蒔絵が浮かび上がってる状態。
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光の加減を変えるとただの黒漆に見えます。
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刀屋の店主に此の鞘塗は何んて言う塗りなのか質問してみると、店主は『最近は余り見ないけど、闇蒔絵と言います』と教えてくれました。 

其の時に感じた事は心の深奥に響く武人達の『慎しさ』でした。

折角の蒔絵を通常の黒地に金などの華美な蒔絵では無く、さり気なく同色の黒い高蒔絵を鞘にあしらう事で周囲に見えない配慮とでも申しましょうか、此の闇蒔絵と言う技法の実に日本人らしい気質を言葉に表現出来ない事がもどかしいのですが、とにかく其の塗りに感じられる品位の高さに改めて日本人の素晴らしさを発見した気分だったのです。

家に帰って調べてみると、漆を塗ってから炭の粉を蒔き、乾いたら磨いて更に塗っては炭粉を蒔く事の繰り返しで紋様の箇所を平地より高く形成していく高蒔絵と同じ技法らしいのですが、通常の金粉や銀粉では無く炭粉を使うと、細かい紋様の線が周りの色と同化し、職人が常より難しい制作行程を踏んでいる事は間違い有りません。

友人に話した事の内容はザッとこんな内容なのですが、何と金沢の釣友は此の闇蒔絵を地元で有名な山中塗の名店である能作さん(創業240年)に餌箱製作と併せて発註したのです。

能作さまの漆器取り扱い注意書きです。
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そして釣友は出来上がった品を私に譲ってくれました。この時は何気なく話した事が友人に多大な負担を強いてしまったと深く反省致しました。其の黒漆闇蒔絵渓流餌入れが此方です。
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流石に名店の職人が製作した品だけあって、素晴らしい出来です。コレを頂いた時は驚いた事は言うまでも有りませんが、余りに恐れ多くて、どうしようも無くて困りました。しかし腹割った付き合いをして来た釣友が私の為に誂えてくれた品なので最大限の敬意を払って頂いた次第です。

後日、今回の頂き物に対し返礼の品として釣友に渡した物は、同じ石川県の陶芸家である内田幸生先生の酒呑でした。
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縁起の良いと思われる末広がりの形状。
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内側はキラっと光る夜空の星の様な景色が出てました。
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内田先生の陶歴です。
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頂いた名品と釣り合うかどうかは分かりませんが、此の盃で金沢の四季を愛でながら名酒を楽しんで頂けたらと考えた次第です。しかし目下のところ一番の悩みが此の餌入れを実際に使うかどうかなのです(笑)。