まだ先の事になると思いますが、考え方に好感が持てる若い刀匠に一腰の刀を注文しようと考えております。刀には其の時代により呼称が存在し、上古刀(直刀)、古刀、新刀、新々刀、現代刀と区別されております。一般に上古刀とは古墳から出土する直刀の事を言います。古刀は平安時代中期から文禄年間までノ期間に作刀された物を言い、新刀は概ね関ヶ原が終わった慶長元年から安永年間の終わりまでとなります。新々刀は天明元年から廃刀令までの間に打ち上げられた刀です。そして廃刀令以降は一律に現代刀と呼ばれております。つまり私が依頼しようとしている刀は現代刀に部類されます。
安卓貞宗写し 源貞弘 友人の所蔵する現代刀です。
歴代の所有者が大事にした古い刀とは違い、私の代から始まる刀を所持したいと思っていたのです。因みに私の妹に其の事を話したら『お兄ちゃん、ちょっと考えてみて....そんな事より....云々....』と嗜められてしまいました。年の離れている妹の話は極めて筋が通り、内容も反論の余地も無いくらいに最もだと肯定出来るモノではありますが、20年来温めているお兄ちゃんの決意は変わりません! そして白鞘の仕上げでは無く、今回は拵え(外装)付きで作ろうと思っております。白鞘のままで上研磨が施された刀身だと拵えを改めて造る時には、寸法を合わせる為に新しい鞘に何度も何度も刀身を出し入れす為、どんな名人が行っても刀身にヒケ傷(すり傷)が付き易い難点がございます。反面今回の様な新作刀では仕上げ研ぎの前に拵えを造るのでヒケ傷が着いても後に仕上げ研ぎを行うので刀身は研ぎ師が仕上げたままの美しい状態となるのです。刀剣研磨の工程を軽く説明すると、まず下地研ぎとして金剛砥、備水砥で形を整えます。そして改正砥、中名倉砥、細名倉砥、内曇刃砥、内曇地砥を使います。此の時点で拵え製作などの工程を入れます。その後に仕上げ研ぎとして刃艶、地艶、拭いの工程を経て、刃取りと鎬地の磨きを終えて最後に鋒のナルメを行います。とてつもない工程になるのはご想像の通りですが、研磨料金は一寸で8000円から15000円程ですので2尺3寸の刀だと20万から35万くらいの費用が必要です。『高い』と感じられる方が大半だと思いますが、実際に研ぎ師の作業工程を見ていくと、そんな考えは吹っ飛んでしまう程に見事な業前です。
刃物が世の中に出現してから刃物を研ぐ事は行われておりますね。
糸魚川翡翠(硬玉)
今回の話と関係ありませんが日本人の研磨技術は世界最高です。翡翠の硬度は鉄よりも上で水晶よりも下ですが、古墳時代の遺跡から出土する翡翠の勾玉はどの様に研磨したのだろうと思わず考えてしまいます。
話を戻しますが、刀の拵えを造る前に絶対に決めなければならないのが『縁』と呼ばれている金具なのです。此の金具で鍔の切羽台が決まり、柄の太さや鞘の太さまで決まってしまう大事な金具なのです。だいぶ前に此の事を知らないで大失敗した事がございます。
写真は柄巻師が柄に糸を巻いている場面ですが、柄の右端にあるのが縁金物です。
作刀と合わせて製作を依頼しようと思う外装は『番差し』と言われており、武家が登城する時や正式な場所に赴く時に使われた外装なのです。ドレスコード的には最も高い格式の外装と成ります。シンプルですが格調高い外装であり憧れておりました。鍔は赤銅地で碁石形、大刀には小柄と笄が付属し、脇差には小柄のみを付けます。目貫は金無垢などの豪華な物か家紋の目貫を用い、柄頭は水牛の角に黒漆、柄巻は頭に筋違いに掛けて巻き、縁は磨地か赤銅魚子地に家紋を入れます。鞘は黒呂色塗と言い、黒く濡れたような美しい光沢の鞘となり、大刀の鐺はキリ(横一文字)になり、脇差の鐺は丸鐺に仕上げます。専門用語だらけで申し訳ありません。
コレは大小の写真です。御用以外で普段に外出する時などは意匠を凝らした違う拵えを別に誂えていたと言われております。
其の様な訳で今回は持株会を一部売却した資金で拵え(刀の外装)の金具全般を大阪天王寺に住む刀身彫刻の先生に頼もうかと思っております。具体的に言うと鍔、縁、頭(コレだけ水牛の角に黒漆)、笄、小柄になります。貧乏サラリーマンに取って刀と拵えは完成まで数年掛かりのロングプロジェクトとなりますが、始めなければ何も始まらないので推進して行くつもりです。