みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

買い物 懐剣

刀剣には様々な種別の中で懐剣というものが御座います。 別名守り刀とも懐刀(フトコロカタナ)とも申しまして、咄嗟の出来事から自身の身を守ったり、仕える主人を守ったり、辱めを受ける前に自刃用にしたりなど武家の女性が帯に挿しておりました。男性でも懐刀(フトコロカタナ)を所持するケースが多々有ったと書籍などで最近知りました。様々な書籍を読むと、武器としての一面より『御守り』としての帯びる事の意味が強かった様な感じが致します。懐剣は現在でも結婚式において新婦が白無垢着用時に必ず帯に挿します(自前で用意しない限りオモチャ)。私は祖母や母親の守り刀を見てますので我が2人の娘にも.....と常より考えておりました。後々此のブログでもご披露致しますが、上の娘の守り刀は既に有ります。仮に結婚式という事に成ると、其れは門出でもあるので一度新作刀として注文しようと考えました。そこで全日本刀匠会という組織に連絡し、好きな作風を説明し得意としている刀工を教えて頂きたい旨をお願いした処、受付の女性の方が親切に対応頂き、今は詳しい方が席を空けているので、後程折り返し頂けるとの事で待っておりましたが梨の礫でしたので諦めました。其処で2年ほど予算と相談しながら気に入った物が世に出てくるのを待っておりました。そんな中で今回ご縁のございました物は現代刀であります。作者は大正から昭和初期の代表的な刀工である室蘭の堀井俊秀刀匠が鍛えた5寸一分弱の短刀です。堀井刀匠は堀井胤明氏の門人となり、その腕と人柄を評価され堀井家に養子に入り三代目と成りました。愛刀家には三笠刀で知られる当時を代表する名工です。

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全体像


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銘 (改名する前の銘です)


三笠刀の由来は東郷平八郎元帥の指揮の下で当時世界最強バルチック艦隊日本海海戦に於いて見事撃破した連合艦隊の旗艦で三笠という戦艦が御座います。連合艦隊日本海海戦の少し前にロシア旅順艦隊と戦いました。此の旅順艦隊を撃破しないとバルチック艦隊と旅順艦隊で日本連合艦隊は挟み撃ちにされ、日本は負けるという瀬戸際だったのです。此の旅順艦隊との海戦を黄海海戦と言います。此の戦いで旗艦三笠は後部の主砲の一門を敵砲弾で破壊されました。その破壊された砲の残鉄を利用し堀井刀匠が玉鋼と混ぜて鍛え上げ、当時の水交社を通して世に出した刀剣類が三笠刀です。『皇国興廃在此一戦』の彫物が施された物も御座います。刀剣は勿論武器ですが古から高い精神性が同時に備わり、武器としての有用性と同じくらいか、或いは其れ以上に高い精神性を尊重されております。此の短刀は列位が上の新刀や古刀における著名刀工と比べたら美術的価値は格段に低いですが堀井刀匠の『人としての高潔さ』が強く感じられました。今回の短刀は三笠刀ではありませんが、間違いなく堀井俊秀刀匠(茎に切られている銘は前銘の秀明です)が鍛えた物と考えます。

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帽子


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保存刀剣鑑定書

専門用語だと次の様になります。平造り 庵棟 小板目肌詰んで柾に流れる 刃文は直刃 帽子は丸く品良く返る 刃縁に小沸付いて匂い口明るく冴える 表に腰樋を脛巾下まで掻き流し裏に護摩箸を彫る 茎は生 化粧に筋違い鑢で栗尻......此の事を娘に教えるのに時間がかかりそうです。

此の寸なら小柄な娘達の帯に挿してもサイズ的に問題ないと思います。その時が来るまで手入れを繰り返し、大事に保管してまいります。何れ拵えを制作しようと考えております。どの様な様式にするか? 金具類を探して小柄を付けるか? 出鮫の匕首拵えにするか? 楽しみが増えました。

正直に言うと此の様な形では無くて現金の方が娘は喜ぶに決まってますが、昔から続いた習慣ですので私が当主の内は伝統を引き継ごうと思います。愚痴になりますが当家では此の様な事も私で最後かもしれません。