みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

翁の事 3

我が家のチューリップが咲いておりました。昨日は、横浜の管理職達数人と試験に挑みましたが、皆見事に討ち死にしてしまい、私も一点足りずに落とし、ヤサグレておりましたところに有難い癒しとなりました。f:id:rcenci:20260412092938j:image

今週は『翁』の話の最後に成ります。また、今回『翁』の事を書かせて頂いたキッカケのお話を後半にさせて頂きます。

翁の主たるキャストや役割、小道具の事などを父秘蔵の翁図三幅対(さんぷくつい)の軸画を元に御案内致します。

前々回と前回の翁の記事で少し掲載させて頂きましたが、此方が我が家の翁図三幅対になります。三幅対とは異なる三つの軸画で其の意味を現すものとなります。f:id:rcenci:20260412093001j:image

向かって左には『面箱持ち』と言う演者が描かれております。流派によって異なりますが、面箱持ちが『千歳』と言う役を演じます。軸画の顔をよく御覧頂きますと、あどけなさが残る面立ちで有り、若者である事が分かると思います。f:id:rcenci:20260412093010j:image

烏帽子を被り、腰刀の柄は出し鮫であり、厳つい兜金(かぶとがね)と目貫は恐らく金着せなどの金をあしらった専用の物だろうと思います。

若侍の表情は、翁の面(神)が入った面箱を捧げ持つ緊張感を感じますね、また、そう思わせるのも絵師の技量かと思います。

捧げている黒漆の面箱には、一面に『波千鳥図』が金蒔絵で描かれております。此の軸画では波千鳥図ですか、決まった様式は無く、恐らくシテ方の家に其々の面箱が伝わっていると思います。f:id:rcenci:20260412093022j:image

御参考までに、波千鳥の図柄は『世間の荒波を、家族(千鳥の群れ)が励ましあって超えていく』という意味合いが有り、古来より日本人が好む図柄となります。

千鳥は、とても愛らしい小鳥さんであり、私も大好きな図柄です。f:id:rcenci:20260412093033j:image

面箱持ちが演じる千歳とは、『翁』による天下泰平の舞の前に行われる露払いとなります。『露払い』とは貴人や神が通る場所に対し、草木に着いた露が衣に着かないように前もって通り、其の露を自らの衣服に付着させる役目です。衣装が草花図であるところが絵師の考証力ですね。

天下泰平の舞を行う翁です。一つだけ此の図に疑問が有るのですが、翁役の扇は通常白骨だと思うのですが、此の絵師は黒骨の扇を描いております。私の知らない意図が有るのかも知れません。f:id:rcenci:20260412093043j:image

三番叟(黒式尉)です。右手に神楽鈴を持って五穀豊穣の舞を奉ります。f:id:rcenci:20260412093052j:image

此方か神楽鈴ですが、鈴が三段になっております。各段の鈴の数は、一番下が七個、真ん中が五個、上が三個と『七五三』の配列であり、古来から奇数は『陽』、偶数は『陰』とされて来た陰陽説の名残りだと伝わっております。f:id:rcenci:20260412093103j:image

翁三幅対の桐箱です。f:id:rcenci:20260412093112j:image

何故か一部分壊れており、センスのカケラも感じられない素人修理がなされております。埋木が新しいので、恐らくは父だろうと思います(笑)。

今回3回シリーズで神事『翁』につきまして、ご案内させて頂きました。実を申しますと、3ヶ月ほど前に、私が体験したある事で今回ブログの記事と致しました。

其の事とは、恩人で家族付き合いをしているの先輩の御子息が、隣の八王子市に自宅を建て、其のお祝いの席に御招待して頂いた時の事です。御子息とは子供の頃からの付き合いなのです。お祝いの当日は、心ばかりの角樽酒と菓子折を持参致しました。

アマゾンで買った角樽酒です。f:id:rcenci:20260412093230j:image

夕食には、美味しいお酒と奥さまの手料理を沢山頂きました。新築の家は、とても綺麗な洋風住宅でした。窓は小さめで、室内は殆ど白系の色で統一されており、其の白壁に光の強いLED照明が映え、実に今風で綺麗なのです。

しかし....何か不足を感じるモノが有りました。気が付いたら其れは神棚を含めた『棚』でした。まあ、神棚は別と致ましても、何でもよいのですが、物を置くスペースが壁埋め込み収納化されて無いのです。極めて便利そうでは有ります。

新築祝いの宴を辞して、家まで帰える傍ら、少し考えたのですが、家主の親で有る先輩には一方ならぬ御恩を受けている手前、何か恩返しをせねばならないと考えました。

そこで、息子さん家族の『心の拠り所』となる様にと考え、翁の面と飾り板を送る事と致しました。早速に面打ち師に連絡したところ、有難い事に翁面の在庫が有り、化粧板だけ制作して頂いてから相手方に送付致しました。

やはり、新しい翁の面は美しいです。f:id:rcenci:20260412093239j:image

暫くして、恩人と息子さんから連絡が有りました。翁の面は家族がくつろぐ居間の壁の高所にお祀りされたとの事です。家族は必ず毎朝一礼されるとも話しておられました。きっと神さまも御喜びで有り、息子さん家族を守って頂けると思います。

清水の舞台から二度ほど飛び降りたつもりで贈らせて頂いたのですが、結論的に良かったと思いました。やがて御子息の子供さん達が成長して家族を持てば、翁は神さまで有る事を、其の子供達へ伝える事だろうと思います。

私も、幼少の頃より父から厳しく稽古をつけて貰った事を思い出しながら、此れを機に再び能を学び直そうかと考えた次第です。

此方は有名な歴史学者のアーノルド・J・トインビー先生です。国家単位で歴史を紐解く事を良しとせず、人類の歴史を文明単位で見つめる事を提唱された方です。世界最古の皇室を有する日本を心から敬愛されておられました。f:id:rcenci:20260412093252j:image

トインビー先生は民族が衰退し滅亡する理由を以下の様に語っております。
 
『自国の歴史や神話を忘れた時』
『物質的な価値に溺れた時』

実に恐ろしい話ですね!

今回些末ながら『翁』の話を通し、様々な事を御案内させて頂きましたが、少しでもご興味を持って頂けたら此の身の幸いであります。