土曜日には我が家の芍薬が咲きました。此の芍薬が咲くと通常通りでしたら木曽川の本流で良型渓魚が釣れる時期なのですが、今週は予定が超盛り沢山で川には行けないのです。代わりに本日は釣り道具作りの話をさせて頂きます。
渓流釣り師のなかには、道具を手造りされる方が多くいらっしゃいます。私の師匠も竿以外は手造りしておりました。私が師匠から受け継いだ物作りは秘伝の毛鉤とタモ網の枠造りと餌箱と竹魚籠造りです。
私が師匠から教えて貰った物作りのなかで、不器用な私が及ばずながらも習得したのは、キッチリ教え込まれた秘伝の毛鉤巻きと餌箱とタモ枠造りです。竹魚籠作りは何度も挑戦致しましたが、人様にお見せ出来る代物には成りませんでした。また、何故か毛鉤巻きだけは『お前にだけ教える』と言われましたので此の場での紹介は差し控えさせて頂きます。
此方は師匠から頂いた竹魚籠です。裏に師匠の家の屋号が焼印で押されております。肝心の師匠自身はアケビの蔓で造った超特大の魚籠を使っておりましたので、もっぱら販売用に制作されていたみたいです。
此方はかつて師匠の愛竿だった和竿です。私が出会った時は既にグラスロッドを使われておりました。此の竿は大事にされていたようで、シーズンが終わると拭き漆で小傷を補修されていたとの事です。此の竿は師匠の奥さまから頂いた私の宝物です。
其れでは、私が造ったタモ枠をご紹介致します。恐らく30本以上は造っておりますが、大概の完成品は渓友に進呈してしまいます。我が実家の屋号は『白峯舎』と言いますが、師匠に習い私も焼印をオーダーし押しております。
お気に入りのカヤの木で造ったタモです。左右の枝が太くて長く、尚且つ左右ともほぼ同じ太さとなり、柄の部分も少し縦割れが有りましたが、細身で確りしているなど、切り出した時から素性がとても良いものでした。石突に黒檀を長めに切って使っております。数箇所に藤を巻いて補強し、カシューという人工の漆を薄めて、8回程塗り込みました。網は市販のモノですが、本流の大物用に深いものを選んでおります。
かなり角度が付いている事に疑問を感じられる方も居られると思いますが、タモを左腰に差した時にタモ枠を正面に向かせる為なのです。7寸程以下の渓魚でしたら、水面から一気に抜き上げてタモを腰から抜かずにネットインします。
此のタモには意図した訳では無いのですが、とても面白い造形がごさいます。元々の材料に備わっていた割れ目と其の上の黒い左右の節がまるで鯰の顔のようなのです。其の為に『鯰タモ』と名付けております。
因みに此方が本物のナマズちゃんの顔です。子供頃に良く千曲川の深みで釣りましたが、独特のユーモラスな顔で子供達の人気者でした。捌いて天ぷらにしたら最高に美味しく頂けます。
此方もカヤの木のタモです。此方は手返しを良くする為に浅い網を付けております。石突部には鹿の角の先端部を取り付けました。取り付けの方法は、まず木材部と鹿角の断面に工具で穴を其々3cmほど開けます。5寸釘などの金属の棒を金鋸で6cm程に切断し、更に其の鉄棒に糸を硬く巻き込んで孔径を調整し、強力な接着剤で取り付けます。水が接合部に染み込むと木材部分が弱くなり、鉄の部分も腐食してしまいますので、更にエポキシ樹脂で表面を補強して有ります。
タモの材料であるカヤの木は、山間部にこんな感じで自生しております。カヤの木の特徴として枝が左右に広がっており、此の枝をタモ枠に加工するのです。カヤは粘りが有る為に雪原を歩くカンジキにも利用されている優れた木材です。
此の木はタモ枠の材料となりました。左右に広がる枝が太ければ太いほど丈夫なのですが、其の分綺麗な円を成すタモ枠に加工するのは至難の業となります。
良い枝ぶりの立木を見つけましたら、柄の長さとタモ枠の径を考えながら伐採し、其の後はヤカンに水を入れて沸騰させ、其の口から噴き出す蒸気と炭火の熱とタメ木を駆使して左右の枝をタモ枠の形に丸く曲げていきます。此の作業がタモ枠作りの1番の要です。曲げ終わりましたら、上部で交差する余った枝をキツく縛っておきます。
熱を加えながら左右の枝を丸く曲げるのですが、枝が太いと此の作業が大変なのです。しかし、加工し易い細いモノだと強度に問題が出てまいります。枝が太すぎてどうしても曲がらない時には部分的に鍋で煮込んでから曲げます。タモ枠の形に有る程度納得出来ましたら、今度は枠と柄の角度を決めて曲げて行きます。此の作業の後も枠と柄を紐で縛って固定致します。
一連の工程が終わると今度は曲げた部分のクセ付けです。師匠の家には山の水を取り込んだ池が有りましたが、私の実家には無かったのでプラスチックの大きな衣装ケースに水を張り、其の中に2週間ほど入れておきました。此の工程で枝が元に戻り難くなります。
クセ付けが終わったら皮を剥ぎ取り、柔らかい内に硬い節をヤスリで削りタモ枠と柄の形を決めます。此の時に良く切れる小刀と棒ヤスリは必需品となります。加工が終わったら1ヶ月ほど日陰で乾燥させます。乾燥工程では直射日光で乾かすと割れが出る事が有るので要注意です。
上の写真のタモは12年前に造った物なので途中経過の写真撮影を行っておらず、下手な手書きでごめんなさい。こんな感じで感想させた後に接合部分を斜めに削り、断面を接着剤で確りくっつけて紐で結んでおきます。接着剤が乾いたら貼り合わせた部分に細いドリルで2ツ穴を開け、市販の竹串を孔径が合うまで削りこんで差し込み、周囲を綺麗に削って仕上げます。更に此の上に藤を巻く時もごさいます。
其の後、カシューという人工漆を最低でも5回は塗り込みます。一気に塗るより、薄めて何回も塗りこんど方が丈夫な気が致します。最後に市販のタモ網を取り付けて仕上がりです。
以前の写真で申し訳有りませんが、私の家には階段下に釣り道具部屋がございます。タモは気に入った物を自ら使うように残して有りますが、壁に掛けるスペースがもう有りません。友人からは『ネットで販売したらどうか』と言われましたが、今のところ本業が有りますので現在迄は行っておりません。
昨今では、仕事の責任も重くなり、情けない話ですが、釣り道具作りも幾分面倒になってしまい、全く作っておりません。定年して更科(現在の長野県千曲市)にでも帰ったら再び造ってみようかと思います。