みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

鉄鍔の黒錆付け

また鍔の話で恐縮ですが、今週は釣りに行かずに家におりますので、短刀用の鉄鍔の黒錆び付けを行いました。現在はもっと簡単に黒錆を付ける溶液が販売されておりますが、日本の職人が丹精込めて制作した鍔には思う処有って使いません。 

黒錆と赤錆の違いを難しく説明しても面白く無いので黒錆を付ける利点を簡単に言いますと、黒錆を付ける事によって鉄の表面に酸化皮膜を形成出来ます。有る程度の皮膜が出来れば鉄の内面までの朽込みが起こらなくなって鉄が長持ちするのです。一方の赤錆は鉄の内部まで侵入して本体をボロボロにしてしまいます。鉄鍔の魅力は厚く重なった黒錆の艶に尽きると個人的には考えます。話しは違いますが世界にも酸化皮膜を形成する事で鉄の錆が進行していない稀有な事例がございますのでご紹介致します。

日本では有りませんがインドに有るデリーの鉄柱です。紀元415年に建てられ1500年以上も風雨に晒されていますが錆びが内部まで進行していない摩訶不思議な鉄柱です。錆びていない訳として、鉄柱の表面にリン酸化合物の皮膜が存在することで錆に強いのではないか?と言われております。Wikiより
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刀や鉄鍔の様に温度を上げて鍛造する事により不純物が外に出されて純度の高い鉄になり、錆びにくい事は間違いないのですが、1500年以上の長きに渡り錆びない事は世界中の科学者の理解の外なのです。この鉄柱に施された皮膜はいったいどのように施されたのかも解明されていないし、大規模製鉄が行われていない時代にどうやってコレだけの物を造ったのかも解明されていない正真正銘のオーパーツで有り、歴史ミステリーなのです。 Wikiより
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話を戻しますが、私の所有する短刀の鍔に暫く手入れをしなかった為に赤錆が少し出てまいりました。赤錆が深いと鹿の角なので擦って赤錆を落とすのですが、今回は部分的な薄い赤錆でした。

短刀用の花形四方蕨手透鍔です。f:id:rcenci:20220702124842j:image

まず用意するのは鉄鍋です。よく見て頂くと分かりますが内側は黒くなっております。
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次は日本茶です! 私はティーバックタイプを使う様にしております。
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後は簡単です! お茶と鍔を鍋に入れ、お湯を多めに入れて煮込みます。
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此の技法は象嵌や南部鉄器の黒錆つけなどに古くから用いられている技法らしいです。何でもお茶に入っているタンニンが赤錆と相まって化学反応を起こすらしいのですが、無学な私には詳しい化学反応の内容は分かりません。約30分程煮込むとお茶が真っ黒になります。煮込んだら其のまま冷ましてから鍔を取り出します。まだ濡れた鍔をお餅を焼く網に乗せてコンロで炙ります。その後に丁子油や椿油などに少し入れておき、乾いた布で油を拭き落として完成です。

こちらが行う前です。
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こちらがお茶で煮込んだ後です。ちょっと写真が下手くそで分かりずらいですね!
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(前) コチラは分かりやすい横からの画像です。
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(後) 赤錆部分が黒錆に変化しております。
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以上が黒錆び付けの一連の作業ですが、通常は乾いた布でひたすら拭き上げて行くのが鉄鍔の手入れです。何百年も蓄積した黒錆は虎屋の羊羹の様な、または濡れた黒とでも申しましょうか、何とも言えない深い味わいが有り、私の様な鉄鍔好きには堪らない色なのです。此の鍔も恐らくは侍の拵えに使われていた物が、壊れやすい鞘などの破損などを契機に鍔だけで一人歩きしていた物かも知れません。またはもっと数奇な運命を内包した鍔かも知れません。錆を愛でるなんて変に思うかもしれませんが、そんな事を妄想しながら今宵は鉄鍔を肴に一杯傾けます。

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