みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

身体の休養と内側のリセット

今週は火曜日に近くの店舗に転勤して来た30年来の同期入社である友との懇親、木曜日にお客様の接待(2次会で逆に接待を受けちゃう)、金曜日は部下9人の表彰式出席に伴う小宴と3回の午前様となった事により自宅静養と致しました。

いずれの宴も楽しい時間で有って、気がついたら時が経過していた状態でした。特に金曜日に半期の武功を受けた部下達を労った席には前任の所長にも同席頂き、中央の色々な話を教えて頂いた事は非常に勉強に成りました。土曜日に於いては一日中寝ていると言う情けない状態となり恥入るばかりです。

日曜日は早くから目が覚めたので釣りの準備と刀の手入れを行いました。刀の手入れとは古い油を落として新しい油を刀身にぬるだけの事ですが実は違う効用も有るのです。

この大きい霧の箱に七口ほど脇差も含めた刀が入っております。
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釣りをする時に桐の餌箱に入れた川虫は長生きするように桐は呼吸すると言われており、箱の中の湿度と温度を程良く調整してくれる優れ物なのです。此の刀箱に有る刀剣類は短くて刀長が54cm、長い刀は刀長が76cmです。約2時間半を掛けて油の敷き直しを繰り返し行うと、刀を保持する左手の筋肉疲労が凄まじい状態になります。集中していたので写真撮影を失念してしまいました。なかなか御理解頂けない事ですが、刀の手入れは気構えが必要なのです。中途半端な心構えでは怖気づいて鞘から抜けません! 捉え方にもよりますが、手元に有るのは生き物を殺傷出来る武器でありながら神器にも成り得る物なのです。一口ずつ丁寧に手入れを行い、最後の一口を白鞘袋に入れて紐を締めると思わずホッと大きな深呼吸をしてしまいます。

次は短刀を3本手入れ致します。短刀のうち『拵え』を製作している物は別の桐箱に入っております(コレがとっても嵩張るのです)。
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箱から出した『拵え』と短刀です。
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拵えの柄の構造は朴の木の周りに鮫皮(エイの皮)を巻いたものです。定期的に茎(なかご)を入れておかないと心配なので、手入れの都度に行うようにしております。

朴の木の鞘から目釘を外します。
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煤竹の目釘が痛まない様に初冬の乾燥した孟宗竹で自作したオリジナル目釘抜きを使います!

古い油を拭った刀身です。コレは身幅も広く刃長も9寸以上ある大ぶりの短刀です。
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刀身に光をあてると和鉄を練り込んで折り返し鍛錬によって出来た模様(丸いモノは杢目と言います)が浮かびます。
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光の左下に視える丸い縞模様に沿って光る黒い筋が浮かんでおりますが、其の光る黒い筋を専門用語で地景(チケイ)と言います。此の地景が刃文に入ると稲妻と言います。まるで刀身の中に雷が落ちるように自然の景色が鉄の組成により視えるのです。

短刀や刀は刃を上に向けて差しますが、前側にくる面を差し表と言います。
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光の左側をよく視てもらうと鉄が重なっているのが解ると思います。此の構造を研ぎによって浮かび上がらせるのも研ぎ師の腕の見せどころです。此の短刀は相州伝の造り込みなので板目肌が出ております。木の板に出る模様の様なので板目と言います。
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光が当たっている左方の白い部分の更にグレーの部分が刃文です。刃文と地鉄の境目が和紙を破いた様に繊維が飛び出て視える様を『ほつれ』と言います。
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コチラは差し裏です。刃文は直刃調に互の目足です。
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差し裏の帽子(切っ先の焼刃の事)近くには特に杢目が激しく入っている事が解ると思います。
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刀剣の鑑賞は平安時代から行われております。一本毎に全て違う鉄の表情があります。ところが何となく気分が滅入る時などは不思議な事に今説明した様な内容が視えない時が起こるのです。そんな時は一度刀を鞘に納めて二、三回ほど深呼吸し、気分を落ち着かせて改めて視ると今度は良く視えるのです。そして鑑賞が終わり、油を塗布して鞘に納めた後には心身共に落ち着き、冷静な自分を取り戻す事が出来ます。正直言うと私は何時も助けられているのです。