前回の木曽釣行の時ですが、次のポイントへ向かう途中に飲み物の自動販売機を見つけたので三矢サイダーを購入しました。暑かった事もあり、その場でスクリューキャップを外して腰に手を当ててラッパ飲みしておりますと、住民の皆さまが利用されるゴミ置き場がごさいました。そのゴミを入れる鉄制のカゴの向こうに道路と反対の藪の方を向いて石像がひとつございました。
この石像です。
手が8本ごさいます。8本の手には弓、矢、刀、矛、斧、長杵、鉄輪、羂索をお持ちになっております。最初は仁徳天皇が遣わした和珥氏(わにうじ)の先祖である難波根子武振熊 (なにわのねこたけふるくま)に滅ぼされた飛騨地方に伝わる両面宿儺(りょうめんすくな)かと思いました。しかし日本書紀に出て来る両面宿儺は足が4本のはずなので違いました。其処で再度詳しく観察すると思いついた神さまがおりました。結論を言うと此の形も弁財天さまなのです。七福神の一柱であり、琵琶を持ちになって優しいお顔の印象がある弁財天さまですが、その実は戰神さまなのです。以前薮原地区の弁財天さまを紹介しましたが、今回の様に長くなるので詳しくは綴りませんでした。弁財天さまは元々ヒンズー教のサラスヴァティーという神が仏教と同化したお名前と伝わります。
サラスヴァティーはヒンズー教の創造神であるブラフマーの妻です。このお姿が我々が想像する弁天さまにつながりますね。ところが次に紹介する弁財天さまは少し趣きが違います。
広報ふじさわより『八臂弁才天坐蔵』
此方の弁財天像は江島神社の八臂弁才天坐蔵で2019年に国指定重要文化財に指定されております。木曽の石像を見て私が思い出したのは此の像でした。
広報ふじさわより 『妙男弁財天像』
此方はふくよかな女性のお姿で我々の何時も心に想う弁財天さまです。
ご覧の様に全く違う神様に見えます。神さまには荒魂(あらたま)と和魂(にぎたま)という2面性が有ると伝わります。良い事をしている人に見せる慈愛に満ちた側面と、反対に神罰を下す憤怒の一面と両方が有ると父から教えてもらいましました。木曽の街中のゴミ箱の横に有った弁天さまは荒魂の弁天さまでした。
弁天さまと気が付いた時は、思わず手を合わせたのですが、果たして三矢サイダーをラッパ飲みしていた私は荒魂の弁天さまにどの様に映ったのか分かりません。此の場所は大水が出ると容易に水が押し寄せそうな場所だったと思われ、恐らく古の方が荒魂の弁天さまをお祀りしていたかも知れません。父親の蔵書に日本の考古学者である樋口清之先生が記した『梅干しと日本刀』と言う有名な本がございました。其の本に確か日本人は過去の自然現象による災害を地名に残して後世に伝えたと言う一筋がございました。其処で父親が残した覚書にしたためられた内容を以下に紹介します。
父親の覚書より
龍と竜 洪水
鮎 地盤緩い
蛇 水と土石の災害
女 津波
亀 陥没 水が大地をえぐり陥没
駒 地盤緩い
椿 崩壊しやすい
梅 埋め立てた土地 埋まる
柿 掻く 欠くに由来
桜 雨で崩れやすい土地
倉 崖崩れ 雪崩
芝 柴又 低地帯
荻 穿に由来 災害で荒地となった
草 腐るに由来 古に何かが腐った 死体
鷺 裂くに由来した土地
袋 大雨の時に浸水し易い土地
改めて見てみると結構東京に覚えのある名前がある事に気がつきました。信州も平成の大合併で古い地名が無くなって新しく変わってますが、もしかすると先人が己が経験を後世の我々に残す為の大事な警告が失われているのかも知れません。冒頭に紹介した此の石像も過去に水害があったので後へ伝える為に水を司る弁天さまをお祀りしたと思われます。今回は取り止めのない話になり、申し訳ありませんでした。