みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

オアズケの終末

自分の不注意で車を破損し、今週も釣りはオアズケでです。『代車をお貸ししますか?』と修理工場の方は仰って頂きますが、ご時世で運転するのは躊躇われます。やはり直って来てから入念なアルコール消毒を程した自分の車でなくては、車中泊も兼ねた釣行は厳しいと考えました。

土曜日の朝は何時も通り子供達の朝ご飯を作り、家族3人で食卓を囲んでご飯を頂いていると、何時も使っている湯呑みが目に止まりました。此の志野焼の湯呑みは結婚祝いに多治見市に住んでいる友人より頂いた夫婦湯呑みです。もう25年以上使っており、内側の貫入(焼成時に土と釉薬の収縮率の差によって生まれる浅いヒビ)に茶渋が着いてやっと良い感じになって来てくれました。此の志野焼きの湯呑みを手にした時から私は志野焼のファンになったのです。本日は少し志野焼について綴ろうと思います。

鼠志野夫婦湯呑み
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高台の中に『日』の銘があります
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貫入の中は茶渋が入り良い感じです。
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作者は岐阜県重要無形文化財保持者の安藤日出武さんです。窯元の家に生まれて3代目になる方です。巨匠加藤唐九郎先生の助言で美濃発祥の焼物造りに目覚めたとテレビで見た本人の話にございました。そこで穴窯という桃山時代の窯を築いて艱難辛苦の末に数々の賞を受賞された陶芸家です。

志野焼美濃焼の一種です。室町将軍に仕えた志野宗信(そうしん)が美濃の陶工に命じて作らせたのが始まりで桃山時代に全盛期を迎え、桃山時代の終わりと共に途絶えました。百草土という焼き締りが少なくて鉄分の余り含まない土を使用し、釉薬には長石を砕いた物を使用致します。付け加えると志野は生粋の日本生まれの焼物なのです国宝に指定されている二つの茶碗のうちの1つは志野であり、卯花墻(うのはながき 三井記念美術館蔵)と言います。写真でしか見た事ございませんが、茶碗に小宇宙を持つと言っても過言ではない名品と言われております。茶道具とか刀剣類もそうですが、名品には必ず名前を付けて呼称するのは、良い物には魂が宿ると考える日本人の美意識ですね。

国宝の卯花墻です。
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志野焼を再現した偉人
志野焼の愛好者で知らない人は居ない程の中興の祖である荒川豊蔵先生が岐阜県可児市の窯跡桃山時代に焼かれた筍紋の陶片を見つけ、桃山陶器の再現を目指して作陶を続けて人間国宝に認定されました。それまでは仲間の魯山人とは違って収入的には恵まれていなかったそうです。その技法は後に人間国宝に認定された加藤考造氏などに引き継がれました。荒川豊藏氏や加藤唐九郎氏の先達が1985年に同時に世を去った後、鈴木蔵氏が今迄穴窯や登り窯での焼成していた志野焼をガス窯を使って制作し、志野焼きに革命をもたらせました。

興味がある事は追求したい残念な性格の私は家に有った物だけでは飽きたらず、嫁さんに内緒で多くの作品を購ってしまいました(特に鈴木蔵氏のぐい呑み)。品々を一つひとつ語ると長くなってしまうので、紅色が美しく出ている茶碗を一つ、お婆ちゃんの遺品を一つの紅白一対をご紹介致します。

林幸太郎氏の志野茶碗です。
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林幸太郎氏1940年に美濃焼の窯元の息子として生まれ、幼いころから陶芸の世界に触れながら育ちました。高校卒業後は岐阜県陶磁器試験所で人間国宝の加藤孝造に作陶を学び、その後は実家の美濃焼窯元「孝竜窯」で腕を磨きました。様々な伝統技法を研究し、若くして天才陶芸家として数々の賞を受賞致しましたが、41才という若さで惜しくも此の世を去ってしまいました。そして其の意思は弟の林正太郎氏に引き継がれ、正太郎氏は現代美濃陶芸を牽引する大人気作家となり、岐阜県重要無形文化財まで登り詰めてます。


お婆ちゃんが残した河村俊郎氏の志野茶碗です。
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鼠志野と言う焼き方で素焼きの上に鬼板と言う鉄泥を化粧掛けし、其の鉄泥を削って模様を付け、更に志野釉を掛けて仕上げる技法です。
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紅白は『赤』が赤ちゃんを表しており、人がこの世に生まれおちる出生の事、『白』は白紙に戻る死を意味しているとされております。つまり紅白は人生を現すので、色々な節目の時に使うとも言われてます。しかし食いしん坊な私は紅白饅頭を連想してしまいます(笑)。志野焼もそうですが、備前焼の金重陶陽先生や福島善三先生の青白い幽玄な器など、眺め始めたら時間の経過を忘れさせるのは刀剣と同じです....でも....頭の中では川の音がしております。
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