みすゞかる 信州の釣り人

体重0.14tの釣り師ですので目立つのが悩みです。 今までは写真を撮って釣行日誌としてましたが今後はブログとして趣味の歴史探索や刀剣も含めて綴ってみます。

刀の手入れ

我が家には大小合わせて8口の刀剣類が有り、定期的に数口づつ分けて『手入れ』を行います。

今日は3口の日本刀の手入れを行いました。
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手入れと言っても何も難しい話では無く、刀身の古い油を落として新しい油を塗るだけです。何故手入れをするのか?と言うと刀は鉄であり、そのままにしておけば錆びるからです。仮に錆させてしまうと研師に出さないといけません!
10万〜30万の研磨料金が掛かるのは良しとして、数百年も歴代の所有者が守って来た大事な文化財が多少なりとも減ってしまいます。つまり刀を錆びさせる=文化財の破壊なのです!

手入れでは刀身に付いた古い油を拭った後に姿や地鉄及び刃文などを光源を工夫して鑑賞致します。この時間が愛刀家の楽しみであり、時には一口を小一時間程鑑賞する場合もございます。

虎斑の白鞘と言われる物です。
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刀身の写真は本当に難しくて思う様に撮れません。
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帽子(鋒の刃文)を上手く撮ろうと思ったのですがダメでした!地鉄の地景といわれる筋が見えますでしょうか?
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ウネウネしているのが地景です。コレは現代刀なので地鉄に潤いがありませんね!
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然し中途半端な気持ちでは日本刀に向かえないのです。刀は武器ですので疲れている時などは鞘から抜く事を躊躇われます。ある程度ですが構える気持ちを持ってから初めて柄に手を掛けます。手入れが終わるとふ〜っと一息ついてしまいます。

コレはハバキという金具を下から写したモノです。
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鞘に納刀した時に直接刀身が鞘に触れない様にする為と鞘から刀身が抜け落ちなくする為の大事な金具です。此の様に下から見ると摩訶不思議な構造をしており、一説には斬撃の衝撃を和らげる構造であるとの事です。

ハバキの中をベンジンを染み込ませたティッシュを通して拭いますと結構汚れております。
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刀が白鞘に治った状態で車で移動する時などは車の振動で白鞘の中の刀身が揺れて白鞘が少し削れる時がございますので、中の微細な屑を吹き飛ばすためにキーボードの隙間などのゴミを吹き飛ばすコレを使います。ノズルを鯉口に差し込んでプシューとひと吹きして木屑を飛ばします。スプレーの成分で刀身が錆びた事は今迄ございません。
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刀身に塗る油は丁子油が独特の香りと趣がございますが、油のノビで選ぶと断然コレが素晴らしく長年使っております。
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信じられないかも知れませんが私達が暮らしている地球の重量の3分の1は鉄なのです。地球の中心部であるコアは5000°以上ある趙高温の鉄です。日本では其の鉄を黒金と表現します。日本刀は元々は武器として生まれ、日本人の感性により黒金の推を尽くして鎌倉時代には既に隆盛を極め天下一の美術品に変貌を遂げました。

更科で刀剣商をしていた祖父が埴科郡坂城町に鍛刀場を持つ人間国宝宮入昭平刀匠と懇意にしていた事が幸いし、張り詰めた空気の中で仕事をされていた一門の方の姿を見学させて頂いた経験が有り、子供の頃の私は其の雰囲気に体が硬直致しました。刀剣の制作においても刀匠の鍛冶場には〆縄が張られ、鍛冶場には神棚が据えられて刀匠は白の装束で鍛刀されております。刀匠は数々の製作工程を経て数え切れない程に槌を振り下ろし黒金を鍛え上げます。刀鍛冶が火と水の力を借りて己が技前を持って刀身に魂を入れた後は研磨師の技をもって刀身が完成し、鞘師、白金師、鍔工、塗師、柄巻師などの手仕事を経て一振りの刀剣がやっと出来上がります(白鞘の場合は研師を経て鞘師と白金師)。しかし同世代はおろか周囲の方々は全く日本刀をただ恐ろしい物と捉えふ傾向が強く、大事な文化遺産への理解が乏しい事と名刀が日本人の忘られた心と一緒に海外に流失し、展示会にも海の外より借り受けている現状は本当に寂しい限りなのです。